水谷石材ブログ
2026.09.12
古いお墓の文字を読む ── そこに生きていた人がいます
古いお墓に、字は彫ってあります
お宅に、古いお墓はありますか。
先祖代々の墓のほかに、少し離れた場所や、山の斜面や、畑の脇に、苔のついた小さな石がいくつも並んでいる。そういう墓地をお持ちの家が、この地域には今も残っています。
あの石には、字が彫ってあります。
ご存じの方は多いと思います。けれど、読んだことのある方は、そう多くありません。読めないと思っておられるからです。

読もうとすれば、読めます 多くの場合、肉眼で読めます。
日の傾いた時間に横から見れば、彫りの影が出て、いっそう読みやすくなります。
たとえ苔に覆われていても、お掃除をすれば読めたりします。読めない理由は、彫りが浅いからでも、字が難しいからでもありません。読もうとしていないからです。
手を合わせるとき、私たちは石の前に立ちますが、刻字を見てはいない。
彫ってあるのは、戒名。歿くなった年号干支月日。そして場合に寄ると与右エ門、与惣右エ門母といった具合に、その家の誰であったかが、記されています。
読めても、つながりまではわかりにくいです。
先ごろ、あるお宅で、旧墓地の石を一基ずつ読ませていただきました。三十一基。
それを書き出したのが、こちらです。

読めています。けれど、これではつながりが分かり難い。
歿年が、あちこちに飛んでいます。年号から西暦を付けても1861年の次が1885年、その次が1820年。
石が並んでいる順と、亡くなった順は別だからです。
それに、同じ名が繰り返されます。「与右エ門」は代々受け継がれる名で、石に「与右エ門子」と彫ってあっても、その与右エ門が何代目かは書いてありません。
読めるのと、分かるのは、別のことなんです。
ここで、お宅にも寄りますが、過去帳があると大きな手掛かりになります。


墨で書かれた過去帳を開くと、戒名と歿年と続柄が、こちらにも並んでいます。
石と過去帳を突き合わせ、歿年の順に並べ替える。すると、こうなります。

寛文五年から始まって、時代が順に下っていきます。誰の親で、誰の子か。どこで代が替わったか。
左端に「初代」と入れた箇所があります。これは、石にも過去帳にも書かれていません。両方を突き合わせて、初めて決まったことです。
どちらか一方では足りません。両方が揃って、はじめてお墓の主が浮かび上がります。
読めないお墓もあります
全部が読めるわけではありません。
五輪塔のように、もとから戒名を彫っていないもの。風化して、文字が欠落したもの。
このお宅でも、いくつかは空欄のままです。
それでも構いません。読めた分だけでも良いと考えています。
そこに、生きていた人がいます
石に彫ってあるのは、亡くなった日付です。けれど、亡くなった日があるということは、その前に生きていた時間があったということです。
寛文五年に歿くなった方は、その前の何十年かを、この土地で生きておられました。田を作り、飯を食い、子を育てた。家を守った。冬の寒さを知り、川の増水を怖れ、家族の死を弔いお墓を建てた。
その方がいなければ、次の代はありません。次の代がなければ、その次もない。そうして今、その石の前に立っている人がいます。
古いお墓がある、というのは、そういうことです。石が並んでいるのではありません。ご先祖方が、そこにいたという証が、残っているのです。
読めば、それが分かります。手を合わせる相手が、景色から人に変わります。
この作業をさせていただいたお宅では、施主様がこう仰いました。今まで気にしていなかった、整理してもらってよかった、と。ご親戚にも説明ができて喜ばれた、とも。

どなたにも、先祖はいます
最後に、二つ申し添えます。
一つ。
古い墓地が今も残っている家は、決して多くありません。けれど、墓が残っているかどうかと、先祖がいたかどうかは、別のことです。
跡を継いだ家には先祖があり、分家や新しく所帯を持った家にはない。そう思っておられる方がありますが、それは家の制度の話であって、事実の話ではありません。お墓がなくても、記録がなくても、あなたに繋がるご先祖様は確かにいたことに、変わりはありません。
二つ。
そのうえで、古いお墓をお持ちの方には、それは大切なご先祖様なんだと気が付いてもらえること願っています。
そのお墓は、読める形で、今も残っている。それは、当たり前のことではないということを。
読むことは、はじまりです
読むこと自体が目的ではありません。お墓の工事を考えるときの、最初の一歩です。
私の設計は、この順で進みます。まずお墓の現状をすべて確認する。その上でお墓の文字を読み。そのお宅の歴史を踏まえて図面を組み立てる。
移設、改修、建て替え。どれを選ぶにしても、誰がそこにいるかが分かっていると、決められることが変わります。どの石を残すか。どう並べるか。形だけを見て決めれば、寸法の話にしかなりません。関係が分かって、はじめて並べる順に意味が出ます。
このお宅では、共同墓地にあった墓所を、お寺の中へお移ししました。坂を上らずにお参りできるように、というご相談でした。その工事に入る前に、旧墓地の石を読ませていただき、家の歴史を考慮して並べる順が決まりました。
工事の中身については、ページ上部の「選ばれる理由」のなかにある「水谷石材施工事例集」に載せてあります。あわせてご覧ください。
ご相談ください
古いお墓のことでお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。
読むところからでも、工事のご相談からでも構いません。
ページ上部の「お問い合わせ」から、またはお電話(0558-72-0492)でご連絡ください。
設計担当 水谷隆一




